結婚式のスピーチを任されると、多くの方が「感動的なスピーチ例文」を探そうとします。特に上司として祝辞を述べる立場にある場合、格式や礼儀を保ちつつも、心に響く言葉を届けたいという思いから、インターネットで“使えそうな”文章を探すことがよくあります。
ですが、そもそも「感動的なスピーチの例文」というものは、誰かの心を確実に打つ保証のある“正解”ではありません。なぜなら、何に感動するかは人それぞれであり、感情の動きには決まった型がないからです。あなたが「これは泣ける」と思った表現でも、聞き手によっては響かないこともありますし、逆に何気ない一言が誰かの胸に深く残ることもあります。
つまり、「感動させたい」と思って例文を探す行為自体が、感動という繊細な感情から少し離れてしまっているのです。スピーチで本当に大切なのは、完成された文章ではなく、あなた自身の言葉で語られる“本心”です。それがどんなに飾り気のないものであっても、真実味のある言葉は人の心を動かします。
とはいえ、「感動の例文が欲しい」というのは、「何をどう語ればいいのか分からないから参考にしたい」という気持ちの表れでしょう。その気持ちはごく自然なもので、否定すべきものではありません。ただ、そうしたときにおすすめしたいのは、例文集を眺めるのではなく、映画を観たり、小説を読んだりすることです。物語の中には、人と人とのつながりや、別れと旅立ちの瞬間など、人生の節目に立ち会う場面が豊富に描かれています。そこから得られる感動は、型に縛られない“生きた表現”として、あなたの心に自然と蓄積されていくはずです。
最終的に必要になるのは、あなた自身の感受性というアンテナです。どんな言葉に心が動くのか、何を大切に思っているのか。その感覚を自分自身が理解していなければ、どれだけ見事な文章を並べても、聞き手の心には届きません。
結婚式のスピーチにおいて一番感動を呼ぶのは、「あなた自身の思い」がこもった言葉です。新郎新婦との関わりの中で感じたこと、印象に残っている出来事、心から伝えたいと願う気持ち。それらを丁寧に言葉にしていけば、例文に頼らなくても、自然と感動的なスピーチになります。
ですので、まずは自分の中にある“実感”に耳を澄ませてみてください。その声こそが、最も信頼できる原稿になるはずです。