シリーズ「スピーチ代筆の現場から」
~社長スピーチ(新婦側)のケース~
背景
ご依頼主は、空調設備の施工・メンテナンスを手掛ける会社の社長であり、自社の社員である新婦の結婚式において、主賓としてスピーチを行うというご事情がありました。
新婦は、代表者の身内にあたる専務のご親戚でもあり、社内でも重要な役割を担っていることから、その人物像を伝えると同時に、結婚のお祝いの言葉としてふさわしい内容を希望されました。会社としての立場と、個人としての思いの双方を丁寧に伝えることが求められる場面でのご利用です。
作成のポイント
- 新婦の人物像を立体的に描写: 単なる仕事の実績だけでなく、性格面・姿勢・周囲との関係性まで触れることで、会場にいる出席者にとっても共感しやすく、親しみの湧く人物像を伝えています。
- 業務における具体的な関わりを紹介: 具体的な業務内容を挿入することで、単なる感情的な賛辞にとどまらず、実務的な信頼と貢献度を示しています。職場のリアルな風景が目に浮かびやすくなり、聴き手の信頼感も高まります。
- ユーモアと人間味を交えたエピソード挿入: 上司とのやりとりで「唇を尖らせる」など、愛嬌を感じさせる軽妙な描写を挟むことで、聞いている側の緊張感を和らげ、親密な雰囲気を演出しています。
- 祝辞としての格式と温かさのバランス: 結びのメッセージでは、「健康第一」「日常の幸せを大切に」といった普遍的な価値観を提示しながら、二人の未来を祝福する流れを丁寧に組み立てています。個人的な思いと社会的メッセージのバランスが取れた構成となっています。
表現の意図
- このスピーチの中で特に光っているのは、「健康」を中心に据えたメッセージ展開です。多くの祝辞が「愛」や「感謝」に焦点を当てがちですが、本原稿では「楽しいことを楽しいと感じられる」「美味しいものを美味しく食べられる」といった日常の豊かさに言及し、それがすべて健康の土台によるものだと説いています。この視点は、働く人間としてのリアリズムを持ちつつも、誰にでも響く普遍的な真実であり、聴き手にじんわりと染み入る説得力を持っています。
- また、新婦が「自分の仕事に誇りを持っていることが表れる」瞬間をあえて「唇を尖らせる」という言葉で表現した点も印象的です。通常ならマイナスの印象を与えかねないこの言い回しを、あえて用いることで、逆に新婦の芯の強さやプロ意識の高さを際立たせています。これは、社長だからこそ見える“人間味ある魅力”を、言葉の裏に込めた高度な表現であり、聴き手にもその愛情と信頼が伝わるよう工夫されています。
- さらに、「心と体が健康であれば、あとはもう大丈夫」という一文に集約される人生観は、経営者としての経験や価値観が滲み出る言葉でありながら、誰もが日々の暮らしで実感し得る普遍的な真理です。このようなシンプルで力強い言葉の選び方は、祝辞の最後に深い余韻を残すことを意図しています。